東京地方裁判所 昭和40年(ワ)10597号 判決 1966年3月23日
原告 音頭金属株式会社
右代表者代表取締役 音頭政吉
右訴訟代理人弁護士 奥田実
石田駿二朗
被告 有限会社伊藤弘商店
右訴訟代理人弁護士 平松久生
主文
原、被告間の当庁昭和四〇年(手ワ)第三、二五八号約束手形金請求事件について当裁判所が昭和四〇年一一月二五日言渡した手形訴訟の判決を認可する。
異議申立後の訴訟費用は被告の負担とする。
事実
当事者双方の陳述した請求原因、およびこれに対する答弁並びに抗弁は左記を附加するほかは主文掲記の手形判決の事実摘示と同一であるからこれをここに引用する。
原告訴訟代理人は次のとおり述べた。
訴外昭和製作所こと田中武が、被告に対し金額五二万七、六〇〇円、満期昭和四〇年一〇月一一日、支払地、振出地共東京都江東区、支払場所日本信託銀行亀戸支店、振出日同年六月一五日なる約束手形一通を振出したことは認める。
しかし、本件手形は右田中振出の手形と相互にその対価として振出されたものであって、たんなる融通手形ではない。被告は既に右田中振出の手形を訴外平和相互銀行に裏書譲渡しているのであるから、振出人である右田中は同銀行に対し右手形金を支払う義務を負担しているのである。
また本件手形の満期は昭和四〇年一〇月七日であって、上記田中振出の手形満期はそれより後の同年一〇月一一日である。従って右田中振出の手形の満期前既に被告の本件手形金支払義務は発生しているのであるから、右田中振出の手形金が支払われていないことを理由に本件手形金の支払を拒むことはできない。
証拠関係≪省略≫
理由
被告が昭和四〇年六月一日原告に対し金額五二万七、六〇〇円、満期同年一〇月七日その他の記載事項を原告主張のとおりとする約束手形一通(本件手形)を振出し、原告が満期に右手形を支払場所に呈示したところ、その支払を拒絶されて現にこれを所持することは当事者間に争がない。
よって被告の融通手形の抗弁について判断する。
訴外昭和製作所こと田中武が昭和四〇年六月一五日被告に対し金額を五二万七、六〇〇円、満期を同年一一月一一日、支払地、振出地をともに東京都江東区、支払場所を日本信託銀行亀戸支店とする約束手形一通(以下田中振出手形と略称する)を振出したことは当事者間に争がない。
右事実に原告並びに被告双方の代表者本人尋問の各結果を綜合すると次の事実が認められる。
被告会社は昭和四〇年六月初め頃原告会社の代表者音頭政吉に対し手形の融通を依頼したところ、同人はかねてからその金融操作等一切を委かされていた訴外昭和製作所こと田中武の振出人名義で前掲田中振出手形一通を振出して被告会社に融通し、被告会社はその見返りとして同一金額の満期を右手形より前の同年六月七日とする本件手形を振出してこれを原告会社に交付した。
被告会社は右田中振出手形を直ちに割引を受けるために、訴外株式会社平和相互銀行に裏書譲渡し、その割引金を取得した。
原告会社代表者は上記田中振出手形の決済資金を得るために本件手形をその満期に支払場所に呈示したところその支払を拒絶された。
右に認定した事実関係からすると田中振出の手形は融通手形として、本件手形はその見返り手形として交換的に振出されたもので互に対価関係に立ち、俗に書合手形又は馴合手形といわれる場合に該当する。そして他に特段の事由の認められない本件では右手形の交換は被告会社において田中振出手形の決済資金はおそくとも本件手形の満期までに原告会社又は田中に交付する合意のもとになされたものと推認すべきである。
だとすれば、原、被告双方が互に右各手形を所持する場合においては一方からの請求に対し他方は融通手形ないしは馴合手形の抗弁をもって対抗し得ることはかく別として、前認定のように被告会社は既に田中振出の手形については割引金を取得し、現実にその対価を得ておりしかも手形を所持していないのであるから、もはや前記抗弁を主張して本件手形金の支払を拒み得ないものといわなければならない。
もっとも、前掲各証拠によれば、田中振出の手形は被裏書人である株式会社平和相互銀行が満期に支払場所に呈示したところ、その支払を拒絶されて、同銀行が現にこれを所持している事実が認められる。
そうとすれば、右振出人の支払拒絶により被告会社は右手形について遡及義務を負う関係に在るから、その義務を履行する前であっても原告の請求に対しては本件手形金の請求を拒むことができるものと解し得る余地がないではない。
しかしながら、上記株式会社平和相互銀行に対しては被告および田中は融通手形の抗弁を主張し得ず合同してその支払の義務を負う関係に在るばかりではなく、前認定のように右手形決済の資金は被告会社が供給する合意があり、原告ないし田中は自己資金をもってこれを決済する必要がないのであるから(原告は右決済の資金を得るために本訴を提起したものであることは原告代表者本人の尋問の結果により認められる)被告会社が右手形を受戻したというのならばかくべつ、そうでなく訴外銀行がこれを所持している現段階においては被告会社は原告の本件手形金の請求を拒み得ないものと解しなければならない。
よって被告の抗弁はその理由がなく、被告に対し本件手形金五二万七、六〇〇円およびこれに対する満期の翌日である昭和四〇年一〇月八日から完済に至るまで商法所定年六分の遅延損害金の支払を求める原告の本訴請求を正当として認容すべきものであるからこれに符合する主文掲記の手形訴訟の判決を認可することとし、異議申立後の訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 杉山孝)